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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)424号 判決 1979年7月20日

控訴人

全日本運輸一般労働組合

南大阪支部芦原運送分会

(旧名称 全国自動車運輸労働組合

大阪合同支部芦原運送分会)

右代表者分会長

松浦正治

右訴訟代理人

桐山剛

外三名

被控訴人

葦原運輸機工株式会社

右代表者

左崎充

右訴訟代理人

竹林節治

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人を申請人とし、被控訴人を被申請人とする大阪地方裁判所昭和四九年(モ)第七一三九号間接強制申立事件について同裁判所が同年一一月一四日被控訴人に告知した間接強制決定(以下「本件間接強制決定」という。)が存在し、その主文は「一被申請人は本決定の告知を受けた日から七日以内に申請人及び申請人が委任した全国自動車運輸労働組合大阪合同支部の交渉委員と一九七四年度夏期一時金(本件一時金)につき誠実に団体交渉をせよ。二もし被申請人が右期間内に前項の履行をしないときは、申請人に対し、右期間満了の日から右履行のあるまで遅延一日につき金五万円の割合による損害金を支払え。」というものであること、控訴人は、「被控訴人が本件間接強制決定主文一項記載の期間中及び同期間経過後においても控訴人と誠実な団体交渉を行つておらず、同決定主文二項所定の遅延損害金が発生した。」と主張し、同年一一月二四日から同五〇年一月二六日までの一日につき五万円の割合による遅延損害金合計三二〇万円を請求債権として同裁判所に対し被控訴人所有の不動産についての強制競売の申立をし、同裁判所が同五〇年二月一日強制競売開始決定をしたことは、当事者間に争いがなく、また、本件間接強制決定は、控訴人を申請人とし被控訴人を被申請人として昭和四九年七月二三日申請にかかる同裁判所同年(ヨ)第二三一三号団体交渉応諾仮処分申請事件について同裁判所が同年八月一日に発した「被申請人は申請人及び申請人が委任した全国自動車運輸労働組合大阪合同支部の交渉委員と本件一時金についてただちに誠実に団交をしなければならない。」旨の仮処分決定(以下「本件仮処分」という。)の執行として発せられたものであることは、記録上明らかである。

二被控訴人は、本件間接強制決定の定める期間中及びその期間経過後において、同決定主文一項で命ぜられた誠実団体交渉義務履行ずみであると主張し、本件間接強制決定の執行力の排除を求めて本件請求異議の訴えを提起したものであるので、考えてみるのに、間接強制決定基本たる債務名義(原債務名義)に表示された非代替的作為義務等の強制執行の方法として発せられるという一面を有することは否定できない。しかし他面、間接強制決定は、債務者が一定の期間内にその作為義務を履行しないときは債務者は債権者に対し一定の金銭を損害賠償として支払うべき旨、原債務名義には存在しない新たな一定の給付義務を表示した第一審の受訴裁判所の裁判であつて、その不履行の場合は、さらに右決定に対し執行文の付与を受けて通常の金銭執行に移行するのであるから、民訴法五五九条一号にいわゆる抗告をもつてのみ不服を申し立てることができる裁判として、それ自体別個の債務名義としての性質を有するものというべきである(この点、例えば民訴法六八七条所定の引渡命令が単に金銭執行の方法たる不動産競売手続に付随してなされる職務命令にすぎず債務名義の性質を有しないと解されるのとは異なる。)。したがつて、原債務名義に表示された作為義務の消滅などの実体上の事由が生じた場合、それについては原債務名義に対する請求異議の訴え(原債務名義が本件の如く仮処分決定である場合には、これに対する事情変更の訴え)において審理判断されるのが本則であるが、実体上の事由であつてもそれが間接強制決定に表示された金銭の給付義務自体の不発生、消滅等の事由として構成できるものである限りは、債務者はこれを異議事由として間接強制決定に対する請求異議の訴えを提起し、同決定に基づく損害賠償金の取立を免れることができると解するのが相当であり、このように解することは、間接強制決定の前記の性質に反することにはならないし、それが債務者に対する救済の方法としてより直截かつ適切であると考えられるのである。

そこで、まず、本件一時金についての控訴人(その上部団体を含む。)と被控訴人間の団体交渉の経過等について検討する。

前項認定の諸事実並びに<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

1  控訴人は昭和四五年一〇月頃に結成された労働組合であるが、被控訴人は当初から控訴人の組合活動に圧力を加え、従来団体交渉にも容易に応ぜず、団体交渉を開いても代表取締役(以下「社長」という。)が出席しなかつたり、出席しても沈黙するかもしくは交渉事項と無関係な話に終始し、極端な場合には酒気を帯びて民謡を歌いたいと言うなど誠実さに欠ける点が多く、また、従来被控訴人が従業員に対して支払つてきた毎月の賃金や夏冬の一時金についても控訴人の分会員たる従業員の分は非常に低額である等の実情にあり、控訴人はこれらの点について不当労働行為であるとして大阪地方労働委員会に対し救済を請求する等してきた。

2  本件一時金については、控訴人から被控訴人に対し昭和四九年六月六日、一人平均四五万円を支給すること、その配分は九〇パーセントを一律支給とし、五パーセントを年功とし五パーセントを家族手当とする、右配分については考課を認めないという内容の要求がなされた(このことは当事者間に争いがない。)が、被控訴人は毎年の慣行に従つて社長以下担当取締役らで構成するボーナス委員会を開き、当期の会社の業績や過去の一時金の支給方法、支給額等を参考にしつつ本件一時金の支給基準を決定した。その内容は左記の(一)ないし(七)のとおりであつた(この点も当事者間に争いがない。)。

(一)  基本部分

日給をもとにランクを定め算出するもので、日給一五〇〇円まで五万円、同一三〇〇円まで四万、同一一〇〇円まで三万円、同一〇〇〇円まで二万五〇〇〇円、同一〇〇〇未満を二万円として算出し、なお昭和四八年冬期よりランクが下回る場合は五〇〇〇円を加算する。

(二)  出勤率部分

出勤率八二パーセントを基準に一パーセントごとに増減するもので、算出方法は基本の四〇パーセントをもとに一パーセントごとに増減し、それにより得られた金額を二倍する。

(三)  勤年部分

一年一八〇〇円とし、勤続年数に応じて支給する。

(四)  考課部分

考課項目としては協調、自覚、創造、積極、努力、安全、定着の各要素があり、各項目を一〇点満点として評価し、複数の評価者で考課してその総点数を集計し算出する。その結果をさらに一〇点から一点までの五ランクに分けて、一点につき基本の一〇分の一を支給する。なお一〇点から一点までの五ランクの分別は、総合点数五二二点以上を一〇点、四九一点以上を八点、四六〇点以上を六点、三七三点以上を四点、九八点を一点として算する。

(五)  協力度部分

出勤率をもとに算出するが、82.3パーセント以上に一万五〇〇〇円、八〇パーセント以上に一万二〇〇〇円、七五パーセント以上に一万円、七〇パーセント以上に七〇〇〇円、七〇パーセント未満に四〇〇〇円を支給する。

(六)  期待部分

今後の期待度をみるもので、考課と協力度の各金額を加算した額の二分の一を支給する。

(七)  特別手当

役員会が決定するもので、三万円、二万円、一万円とあり、特に企業に貢献した者に支給する。

この算出方法によると、従業員に対する本件一時金の平均支給額は一五万六四四〇円であり、最高額は二四万七三五〇円、最低額は三万二九〇〇円となる。

3  本件一時金要求に関しても控訴人から被控訴人に対し団体交渉の申入れがあり、両者間で何度か予備的な打ち合わせを行つたうえ、同年七月三一日に団体交渉が開かれ、被控訴人側からは社長以下数名が出席して前記支給基準を口頭で回答し、分会員五名に対する各支給総額も口頭で伝え、さらに右の支給基準(配分方法)は例年の慣行どおりであり、総金額も資金繰りの限度いつぱいであることを説明した。

4  同年八月七日は例年の夏期一時金の支給日にあたり、被控訴人は全従業員に対し前記支給基準に基づいて算定した本件一時金を支給したが、分会員である松浦正治、安居三十於ら五名は「話し合いがついていない。」としてその受領を拒否した。

この間、同月一日本件仮処分が発せられ、被控訴人はこれに不服で異議申立をしたが、これとは別に同月一三日には各分会員に対し本件一時金につき各人の各支給項目別の金額を明示し、さらに同月中から同年九月にかけて控訴人と被控訴人の間で、本件一時金要求に関する団体交渉を開くための日時等の調整につき協議を重ねたうえ、同年九月一〇日団体交渉が開かれた。この時も被控訴人側は社長以下取締役ら数名が出席し、控訴人からの説明要求に従つて前記支給基準を逐一説明し、分会員安居三十於の例を挙げて各項目ごとの計算方法も説明し、総額についても「努力、検討したが増額ができない。」と了解を求め、他の従業員らには支給済みであるので分会員も全員受領してほしいと要請した。

5  これに対し控訴人は、同月一七日付文書(乙一号証)により被控訴人に対し、右九月一〇日までの団体交渉によつては未だ納得ができない、基本給については組合員に対する差別を撤廃すべきであり、考課給や特別手当についても考課採点者の氏名、所属、人数、各人の考課点数等を公表するなどすべきである等と申し入れ、また同年一一月七日被控訴人に対し同月一八日までに団体交渉を行つて誠意ある回答をするように申し入れる一方、本件間接強制決定の申請を行つた。

6  大阪地方裁判所は、右申請を受理するや、被控訴人の社長らにつき所定の審訊を行つたが、その機会に控訴人に対し被控訴人の説明を聞く機会を与えるべく斡旋をし、被控訴人の社長は重ねて前記の如き説明を行つた。このほか、控訴人が大阪地方労働委員会に申し立てていた救済請求の手続中においても、おそくとも昭和四八年中には被控訴人から基本給の決定方法、組合員の昇給が遅れている事情、考課についての方法や基準等についての弁明がなされ、かつ昭和四五年度年末一時金や同四七年度夏期一時金についての配分基準(考課の点を含む)の詳細等の説明がなされていて、控訴人としては本件一時金要求に対して被控訴人が如何なる回答をしているかについても相当具体的な細目に至るまで了知していた。

7  同年一一月一四日被控訴人に対し本件間接強制決定が告知されたのであるが、被控訴人は前記一一月七日付の控訴人の団交申入れに対する回答の形で、同月一六日控訴人に対し同日午後五時三〇分から団体交渉を行う旨伝えたけれども、控訴人は「突然のことで対応ができないから一八日にしてほしい。」と希望したため右一六日には団体交渉が開かれるに至らなかつた。そうして、控訴人は同月一八日上部団体の役員らとともに被控訴人に対して団体交渉を求め、同日午後七時一〇分頃から同八時二〇分頃まで団体交渉が行われた(同日団体交渉が開かれたことは当事者間に争いがない。)。右団体交渉には被控訴人の社長のほか取締役ら数名が出席し、まず本件一時金要求が課題とされ、被控訴人側は「控訴人の要求につき種々協議、検討したが、本件一時金については金額、配分方法ともにこれ以上どうにもならない。その配分方法については既に団体交渉の席上や裁判所における審訊の際に何回も繰返し一つ一つ詳細に、数字の掛け算までも示しながら説明したとおりで、それ以上のことは説明できない。新たに付け加えることは、特別手当のランク分けは考課採点などを参考にし売上げ等をも総合的に慎重に協議して、三万円、二万円、一万円、ゼロと決めたものであり、組合員だけがゼロというわけではないし、被控訴人のような業種の場合は交通事情等を勘案し得意先を大切にするために夜間運行をする必要があり進んで残業をしてもらうことはそれだけ会社に貢献しているわけだからそれを考課の対象にすることも差支えがないと考えるということである。組合の要求額と異なるのは立場の違い、見解の相違である。」旨を述べ、これに対し控訴人側は「組合は会社のいう配分方法を望んでいない。自分達が決めたのは要求四五万円、一律九〇パーセント、家族手当などである。いろいろ疑問点があり、考課についても九月一七日付文書(乙一号証)で求めているように一つ一つ説明してほしい。会社は組合の要求を黙殺している。」等と主張したが、本件一時金についてはそれ以上の交渉はなされず、引続き昭和四九年度末一時金についての交渉が行われた。

8  控訴人は右同日の団体交渉終了後被控訴人に対し、同月二一日さらに団体交渉を行うよう申し入れるとともに、被控訴人が未だ誠実な回答を示さないとして同月一九日午前零時から二〇日午後一二時までのストライキ通告を行つたうえ右ストライキを実施し、さらに控訴人は同月二二日、同月二九日、同年一二月二日被控訴人に対し本件一時金要求等についての団体交渉の申し入れを行う一方、その頃組合員の慰安旅行等を行つて数日間分会員全員が連続欠勤したほか、数回にわたり二四時間ストを予告してこれを実行した。他方、その間、控訴人と被控訴人とは引続き本件一時金要求のほか前記年末一時金や一二月分賃金の支給日の問題及びその頃に発布された緊急命令(控訴人の分会員である被解雇者荒井明範ほか三名に対する救済命令に関するもの)の問題等に関して団体交渉を開くべく折衝していたが、同年一二月一五日及び同月二〇日にその団体交渉が開かれた(右両日団体交渉が開かれたことも当事者間に争いがない。)。右一五日の団体交渉においても、被控訴人の社長が出席し、控訴人側も松浦分会長ほか分会員及び上部団体役員が出席し、控訴人はまず右緊急命令の件を議題にしようとしたが、被控訴人の社長は本件一時金要求の問題から入ることを提案し「被控訴人としては基本的には従来の回答を変えることができず控訴人の要求に応ずることはできないが、会社側の前向きの形を表わす意味で一人あたり三〇〇円を上乗せするのが限度である。組合員の諸君の生産は常識以上に格段に低く、それらを考えると会社も厳しいわけである。」等と述べ、これに対し控訴人側は「三〇〇円上乗せは評価するが、組合の四五万円の要求に対して回答が低額にすぎる。会社は右要求につき具体的にどう検討したのか、もう一度説明してほしい。産業別的な大阪の水準なども考慮に入れられないのか。」等と述べたが、当日の交渉内容は右緊急命令の履行条件をめぐる論議が大部分であつた。また、同月二〇日の団体交渉においても、被控訴人の社長が出席し、本件一時金要求に対しては従来の算定方法を動かすことができない旨の発言があつたが、当日の主たる議題は前記年末一時金及び一二月分賃金の支払方法の件に集中された。

9  その後昭和五〇年以降においても、控訴人は被控訴人に対し本件一時金の問題が解決されないとして、引続きこれを交渉事項とする団体交渉の申入れをし、何度か団体交渉が開かれたけれども、団体交渉の場において実際に議論されたのは主として前記緊急命令の履行に関する問題及び賃上げ一般の問題であつて、本件一時金要求については控訴人としても積極的な姿勢を示すには至らなかつた。

なお、控訴人が本件一時金要求についての被控訴人の回答を不満とする主な点は、結局、組合の要求額に比して回答が低額にすぎること、考課撤廃の要求が容れられないこと、考課を存続するとしても考課担当者が誰であるかを知らされないこと、分会員に対する考課が低い理由の説明が不十分であること、就中、分会員の考課の評点が低いと説明されても他の従業員の売上げがどれだけありその考課がどうなつているかがわからなければ得心がいかないので、全従業員の考課を公表すべきであるというにあつた。なおまた、被控訴人からの前記仮処分異議については、大阪地方裁判所は昭和五一年三月二四日本件仮処分認可の判決を言い渡し、被控訴人はさらに控訴及び特別上告をして争つたが、大阪高等裁判所は同五二年一月二八日控訴を棄却し、最高裁判所も同五三年三月一〇日特別上告を棄却した。また、控訴人が大阪地方労働委員会に請求していた各種の救済については、同委員会はおおむねこれを認容し、本件一時金要求に関するもの以前における被控訴人の団体交渉拒否や組合員に対する昇給遅延、不当な考課基準等につき不当労働行為であるとして救済命令を発している。

三以上認定の事実関係に基づいて、被控訴人が本件処分ないし本件間接強制決定主文一項により命ぜられた誠実に団体交渉を行う義務を履行したと解しうるかどうかを判断する。

1 前認定のとおり、昭和四九年一一月一四日に本件間接強制決定が被控訴人に告知されてから同決定所定の七日間における団体交渉の経緯をみると、(一)被控訴人が同月一六日に同日の団体交渉を申し入れたが控訴人がこれに対応できず、実際に団体交渉が開かれたのは同月一八日の一回のみで、しかも交渉時間も約一時間余だけであり、また(二)右団体交渉における被控訴人の基本的態度は、本件一時金要求についての説明、回答は「従来の説明と同様である。控訴人の要求につき検討したが従来の回答変えることはできない。」というものであつて、右(一)及び(二)の事実関係だけを取り出して見ると、被控訴人が本件一時金要求につき果たして誠実に団体交渉に応じたと解することができるかどうか疑問の余地がないこともない。また、被控訴人が本件仮処分に対し異議をもつて争つていることのほか、団体交渉の期日を当日になつて突然通知すること及び団体交渉の時間を一方的に短時間に限定することなど従前労使間で問題とされてきた点(このことは前掲証拠により窺われる。)を依然改めていない節が見られることなども、度外視することはできない。

2 しかし、元来、いわゆる団体交渉応諾仮処分が許容されるべきかどうかについては以前から議論の存したところであり、被控訴人が本件仮処分の効力を法律上の手続を通して争つたからといつて直ちに不誠実といえないことは明らかであり、また団体交渉の日時等についても、同年一一月七日控訴人から被控訴人に対し同月一八日までに団体交渉を行うよう申し入れをしているほか、本件間接強制決定により同月一四日から七日間以内に団体交渉を開くべきことが予定されていたのであるから、控訴人側においても団体交渉に応ずるための対応策をあらかじめ十分に講じておくべきであつて、前記七日の期間内に団体交渉が一回しか開かれなかつた(一一月一八日の次は一二月一五日にようやく開かれた。)点については、必ずしも被控訴人だけを責めることはできない。

3 のみならず、もともと本件仮処分ないし本件間接強制決定にいわゆる「誠実に」団体交渉せよとの命令の内容そのものが多分に抽象的であつて、明確を欠くが、これにより本件一時金要求につき特段の態様の団体交渉を要求している趣旨にも解せられないから、その履行の有無を判定するに当たつては、債務者である被控訴人のした行為が右一時金要求についての団体交渉として通常容認できる程度の合理性を有するものであるか否かの見地からこれを決するほかはなく、その意味で右誠実さの程度もこれを弾力的に把握せざるを得ない。殊に本件一時金要求については、本件仮処分及び本件間接強制決定がなされる以前から当事者間で交渉が持たれ、回数こそ多いとは言えないが団体交渉も行われ、本件仮処分の申請及び本件間接強制の申請手続の過程でも当事者間の話し合いの場が継続して持たれていたことでもあるので、そのいわゆる誠実な団体交渉が行われたかどうかは、これらの全体の経過における当事者双方の態度等をも総合的に勘案、考量して慎重に判定する必要がある(本件間接強制決定は、被控訴人が誠実な団体交渉を行つていないとの認定に基づいて発せられたのであるが、その基本の債務名義たる本件仮処分決定は確定判決と同様の既判力を有するものではないし(被控訴人はこれに対し異議申立をもした。)、また一定の交渉事項についての団体交渉が誠実に行われたか否かの評価は一連の経過全体を適確に把握することなくしてはなし難いところであるから、本件仮処分及び間接強制決定の発令以前の時点における経過をも事情として考慮の対象とすることが許されるのは、いうまでもない。)。

4 そうして、本件一時金要求に関する団体交渉の経緯を見るに、被控訴人においては、過去に見られたように長期間に亘つて団体交渉に応じないとか極めて不誠実な態度に終始するとかの姿勢を改め、比較的短い間隔で団体交渉に応じ、社長みずからが席について積極的に発言していることが認められるのであり、その発言内容も、一一月一八日以降においてはほぼ従前の説明、回答の繰返しに止まつたけれども、それ以前において既に本件一時金請求に対する被控訴人の回答及びその説明が、直接ないし間接的に、相当詳細な程度に控訴人に対してなされていたと認められるほか、被控訴人は一一月一八日の団体交渉では若干ながら付加的説明をし、次の一二月一五日の団体交渉では分会員に対し三〇〇円を上乗せする旨の回答もしているのである。以上の交渉の過程に見られる被控訴人側の積極的な態度ないし努力はそれなりに合理的なものとして評価せざるを得ない。

これに対し、控訴人は被控訴人の回答、説明がなお不十分であると追及し続けたのであり、たしかに被控訴人が従来分会員たる従業員の基本給を低くおさえたり考課の面でも不利益に扱つていたのではないかといつた点に問題はあり、それらの問題が本件一時金要求の問題と無関係ではないところからすれば、控訴人としては本件一時金要求に関連して右の点を追及しようとすることも無理からぬ点があるが、本件一時金要求という当面の交渉事項に焦点を合わせて考えてみれば、控訴人は被控訴人から通常の手段、方法により通常の程度の回答、説明を受けながら、四五万円、九〇パーセント一律支給の要求と被控訴人の回答との開きが大きいという点に固執しすぎたきらいがあるほか、考課の撤廃ないし考課の公開という経営者側の人事権の根幹にかかわり短時日で改訂されることが期待できないような要求をも合わせ掲げて、これらの点につき被控訴人が控訴人の要求を無視していると強調した傾向が見られる。もちろん、被控訴人会社における労働条件等について問題があれば、それを交渉事項とする団体交渉を通じて改善を求めうることはいうまでもないし(現に昭和五〇年三月一四日等の団体交渉においても賃金体系全般の改訂問題が交渉事項となつている。)、地方労働委員会の救済手続等を通じて解決をはかることも可能である(現に控訴人は、いくつかの点につき大阪労働委員会に救済の申立をした。)が、当時としては被控訴人はその賃金体系等の正当性を主張して控訴人ないし分会員と正面から争つていて、未だ確定的な有権的判断も示されるに至つていなかつたのであるから、控訴人がこれらの諸点に固執して被控訴人の説明を求めても、満足のできる回答を引き出すことは無理というべきで、そのことは当時控訴人も十分承知していたものと解されるから、この点は被控訴人の交渉態度の誠実性ないしその程度を判断するにあたつて十分考慮されなければならない。

5 以上のような一連の交渉経緯を総合的に勘案するときは、被控訴人の控訴人に対する従来の対応の仕方、態度等にはかなり問題の存したことは否定できないけれども、少なくとも被控訴人は本件間接強制決定所の期間が経過するまでの間において、控訴人の本件一時金要求に対し団体交渉に応じたうえ、右交渉には社長らも出席してともかくも尋常と認められる程度の回答、説明を行つたものであつて、その努力は一応合理的なものということができるのであり、その団体交渉は妥結するに至らなかつたとはいえ、かような場合には前記説示に照らし被控訴人は本件仮処分ないし本件間接強制決定主文一項で命じられた誠実な団体交渉応諾義務の履行をしたものと解するのが相当である。したがつて、控訴人には同決定主文二項の損害は発生しなかつたものといわざるをえない。

四よつて、本件間接強制決定の執行力の排除を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、これと結論において同旨の原判決は正当であるから本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(日高敏夫 永岡正毅 友納治夫)

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